〔2015年12月10日リリース〕再利用可能で高効率な多酵素複合体を生合成、セルロース分解の低コスト化に期待
国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@ 大学院工学研究院 生命機能科学部門の吉野知子准教授を中心とする研究グループは、菌体内にナノサイズの磁性粒子を合成する磁性細菌Magnetospirillum magneticum AMB-1(注1)を用いて、磁性粒子上に複数のタンパク質をナノレベルで近接に配置する技術を開発しました。さらに木質バイオマスの主成分であるセルロースを分解する2種類の酵素(セルラーゼ)を磁性粒子上に固定化することで効率的にセルロースを分解でき、更に磁気分離により再利用可能であることを明らかにしました。本研究で開発した技術を用いることで木質バイオマスからのバイオエタノール生産プロセスの低コスト化が期待されます。
注1)磁性細菌Magnetospirillum magneticum AMB-1株
菌体内に脂質二重膜で覆われた平均直径75 nmの磁性粒子を合成する細菌。遺伝子組み換え操作を行うことで組換えタンパク質の生産、磁性粒子上への固定化をワンステップで行うことが出来ます。
本研究成果は、Biomacromolecules誌に掲載されるのに先立ち、 11月16日にWEB上で公開されました。 |
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論文名 | Stoichiometrically Controlled Immobilization of Multiple Enzymes on Magnetic Nanoparticles by the Magnetosome Display System for Efficient Cellulose Hydrolysis |
著者名 | Toru Honda, Tsuyoshi Tanaka, Tomoko Yoshino |
掲載URL | http://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.biomac.5b01174 |
現状:廃材由来の木質バイオマスを原料としたバイオエタノールの生産は、再生可能エネルギーの一つとして注目されています。バイオエタノールの生産プロセスにおいて酵素反応を用いたセルロース分解プロセスは、環境負荷の少ないプロセスを構築するために重要なステップです。しかし、セルラーゼによる分解速度が遅いこと、大量の酵素使用による高コスト化が問題でした。そのため、低コスト化に向けた各種研究が行われており、磁性粒子にセルラーゼを固定し、酵素の再利用や安定性向上を目指す研究もその1つです。
一方、自然界にはセルロースを効率的に分解する微生物が存在します。これらの微生物は菌体表面に高度に組織化された複数のセルラーゼから構成される複合体を構築します。この複合体はセルラーゼ同士が近接して配置されることで相乗効果を得て、効率的にセルロースの分解を行っています。しかしながら、高度に組織化された多酵素複合体を磁性粒子上に構築することは非常に困難でした。
研究成果:本研究では、磁性粒子上に固定化される人工足場タンパク質の遺伝子、及びエンドグルカナーゼとβ-グルコシダーゼの2種類のセルラーゼの遺伝子をM. magneticum AMB-1に導入し、細胞内で2種類のセルラーゼを生合成させることで、ナノレベルで酵素の配置を制御した多酵素複合体固定化磁性粒子を創出しました(図1)。構築した多酵素複合体固定化磁性粒子を用いてセルロースの分解を行った結果、個々のセルラーゼを固定化した磁性粒子に比べ迅速に分解反応が進行することを確認しました(図2)。更に磁石で回収し再利用が可能であることを確認しました(図3)。
今後の展開:本研究成果である、多酵素複合体を固定化した磁性粒子は、遺伝子を導入したM. magneticum AMB-1を培養?破砕するのみで構築?獲得できることからも、バイオエタノール生産プロセスの低コスト化が期待されます。また、吉野知子准教授の研究グループはM. magneticum AMB-1を用いた病気に関連する受容体等の磁性粒子上への固定化技術を有していることから、様々なタンパク質複合体を構築できると考えられ、環境分野のみならず、磁性粒子が多用される医療分野への波及効果も期待されます。
(図1)本研究で構築した多酵素複合体固定化磁性粒子の模式図
(図2)多酵素複合体固定化磁性粒子を用いたセルロース分解実験。
個々の酵素を固定化した磁性粒子(○)より多酵素複合体固定化磁性粒子(●)は迅速に分解反応が進行した。
(図3)多酵素複合体固定化磁性粒子を用いたセルロース分解の再利用試験。
5回の再利用で70%以上のセルロース分解能を保持していた。
◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授
吉野 知子(よしの ともこ)
TEL/FAX:042-388-7021 / 042-385-7713